遺伝性乳がんであることがわかった
場合、どんなメリットがあるの?
第2回:
遺伝性乳がんであることがわかった
場合、
どんなメリットがあるの?
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【解説】
大谷 彰一郎先生
大谷しょういちろう乳腺クリニック 院長
(広島市民病院での勤務を経て、現クリニックを開業。
これまでに、5,000人を超える乳がん患者さんの治療に従事) -
【インタビュアー】
名倉 由桂さん
フリーアナウンサー
(元静岡第一テレビ アナウンサー、元NHK大津放送局 キャスター)
名倉さん
まずは第1回目の内容を振り返ります。前回のポイントは以下のとおりです。
遺伝性乳がん卵巣がん、HBOCであるかどうかを調べるためには、BRCA検査が必要であること。
検査を受けるためにはいくつか条件があり、その1つにがんの家族歴があること。
そして、家族歴は患者さんから医療者に伝えないと医療者は知ることができないという点も、当然ではありますが、改めて重要だなと思いました。
大谷先生
そうなんです。
「家族歴は患者さんから医療者へ伝えないと医療者は知ることができない」と紹介しましたが、患者さんと医師の間で、話しやすい環境を普段から整えておかないと、患者さんも医師に話しづらいですよね。
名倉さん
そう思います。私はお医者さんと、普通に話をしていても緊張してしまうことがあります。
その点、大谷先生はいつも笑顔なので、とても話しやすい印象があります。
そんな中で先生が、患者さんに言われて嬉しいな、と思う場面はありますか?
大谷先生
僕は、今回話題になっている「遺伝性乳がん」については、その診療が日本に始まりつつあった時から、熱心に取り組んできました。
「私の乳がんは遺伝ではないでしょうか?」なんて、患者さんから聞かれると「遺伝性乳がんの認知も広まってきたな~」と思い、嬉しくなります。
名倉さん
そうですよね。患者さんが自らの病気に興味を持っているということは、お医者さんとの会話も弾みますよね。共通の話題って重要ですね。
大谷先生
そうなんです。繰り返しになりますが、この表に当てはまる患者さんがいらしたら、ぜひ、「私はこの条件にあてはまるので、BRCA検査を実施することは可能ですか?」と、主治医へ積極的に聞いてほしいですね。
名倉さん
そうですね!
ところで、先生、前回「遺伝性乳がんがわかった場合のポジティブな面も考える」と、教えていただきましたが、具体的には、どういう面をポジティブにとらえればいいのでしょうか?
遺伝性乳がん*とわかった場合の、
ポジティブな面
- *遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)
大谷先生
そうですね。そこ重要ですよね。
自分の乳がんが遺伝性だとわかっていいことが無ければ、BRCA検査をする思いも半減してしまいますね。
BRCA検査で、遺伝性乳がんであることがわかった場合の、良い面を具体的にお話ししますね。
大谷先生
まず、遺伝性乳がんであった方(かた)は、同じ側の乳房にまた乳がんができやすい状況になっています。がんが小さい場合は、温存療法といった、がんの周りだけを切除することが多いのですが、遺伝性乳がんの方の場合、残した乳房にまた新たにがんができる可能性があります。
ですので、がんの周りだけ切除する温存療法ではなく、乳房を全部取ってしまって、再建する、という方法のほうがいいかもしれません。
大谷先生
更に、反対側の乳房もがんになりやすい体質ですので、定期的にがんができていないかをしっかり診察することで、早期発見を目指します。
また、がんができる前に、反対側の乳房も取ってしまって、再建するという方法があります。
こういったことは、保険でできますよ。
大谷先生
遺伝性乳がんの方は、卵巣がんにもなりやすい体質であることがわかっています。
一般的に卵巣がんでは検診の有効性が証明されておらず、がんの初期の段階では症状が出にくいため、進行した状態で見つかることが多いと言われています。
遺伝性乳がんであった方は、卵巣がんになる前に、卵巣を取ってしまうことも保険でできます。
大谷先生
卵巣は出産に関する重要な臓器です。お子さまを希望される患者さんは、先に出産してから卵巣を取るなど、患者さん自身の人生設計を長期的に計画できるという面もあります。
名倉さん
なるほど、遺伝性乳がんかどうかを早く知るということは、自分の人生設計において有用な点が増えるということですね。
そういったいい面も理解できれば、BRCA検査に対して、確かにポジティブに考えられますね。
乳がんの手術や卵巣がんの予防について教えていただきましたが、お薬の選択にも影響はあるのでしょうか?
大谷先生
はい。今回は、お薬については詳しくは触れませんが、お薬の選択肢が増える可能性があります。
名倉さん
遺伝性乳がんと診断されれば、手術の方法が変わったり、お薬の選択肢が増える可能性があるんですね。そのためにBRCA検査が重要になってきますね。
ところで先生、遺伝性乳がんとわかることのデメリットはないのでしょうか?
大谷先生
そうですね。まず、BRCA検査に伴う費用がご負担と思われる患者さんもおられます。
また、遺伝性乳がんとわかることで、がんになりやすい体質を子どもと共有しているのではないか、とご心配される患者さんもおられます。
ただ、こちらに関しても、同じ体質を共有していたとしても、お子さまのがんの早期発見や治療につながる可能性があります。
やはり遺伝性乳がんとわかることを前向きにとらえていただきたいと思います!
名倉さん
大谷先生、ありがとうございました。
本日は、大谷彰一郎先生に「遺伝性乳がんであることがわかった場合、どのようなメリットがあるのか」についてお話しいただきました。
名倉さん
今回のお話を振り返ります。
BRCA検査を行い、遺伝性乳がんであることがわかった場合、新たな乳がんや卵巣がんができやすい体質だとわかること。
その体質に適した手術やお薬を考えていくことができること。
患者さんやご家族にとって、人生設計を長期的に計画できること。
以上、3つのことを中心に教えていただきました。
名倉さん
ここまで、「遺伝性乳がん」について2回に分けてご解説いただきました。先生、最後にこのコンテンツをご覧の方々に向けてメッセージをお願いいたします。
遺伝性乳がん*とわかることを
ポジティブにとらえていきましょう!
- *遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)
大谷先生
「遺伝性乳がん」という言葉は、患者さんに認知されてきていると紹介しました。遺伝性乳がんがわかることのメリットについても、皆さんにもっと知ってもらいたいと思います。
BRCA検査を行って遺伝性乳がんと診断されれば、がんの再発や発症を抑えるための治療につなげることができます。
このコンテンツが、遺伝性乳がんを前向きにとらえていただける手助けとなればうれしく思います!