乳がんは親から遺伝することがある
第1回:
乳がんは親から遺伝することがある
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【解説】
大谷 彰一郎先生
大谷しょういちろう乳腺クリニック 院長
(広島市民病院での勤務を経て、現クリニックを開業。
これまでに、5,000人を超える乳がん患者さんの治療に従事) -
【インタビュアー】
名倉 由桂さん
フリーアナウンサー
(元静岡第一テレビ アナウンサー、元NHK大津放送局 キャスター)
「乳がんは親から遺伝することがある」
という認識は、
少しずつ
乳がん患者さんへ広がってきている
名倉さん
このコンテンツでは「遺伝性乳がん」について、全2回に分けて解説していきます。ご解説いただくのは、大谷彰一郎(おおたに しょういちろう)先生です。
大谷先生は以前お勤めになられていた、広島市民病院、そして現在は大谷しょういちろう乳腺クリニックで乳がん患者さんのご診療にあたられております。これまで5,000人以上の乳がんの患者さんを診てこられたご経験をお持ちです。
早速ですが、先生、これまで長く乳がん診療にあたっておられて、本日のテーマ、「乳がんは親から遺伝することがある」というこの認識は、近年広がってきていると感じられていますか?
大谷先生
はい、これは感じています!情報に敏感な方が多い都会の方だけでなく、私の診療している広島でも、「遺伝性乳がん」の認知が少しずつ広がってきていることは実感しています。
名倉さん
どのような場面で、そのように感じますか?
大谷先生
具体的には、「親戚が遺伝性乳がんであったので、私も遺伝性乳がんかどうか、検査してほしい」と申し出がある患者さんを複数経験しました。数年前までは考えられないことです。
名倉さん
2020年4月から遺伝性乳がん(遺伝性乳がん卵巣がん、HBOC)かどうか調べることができるBRCA検査や、予防的に乳房を切除するなどの手技が保険適用となったと伺っています。保険適用から3年が経ちますね。3年も経てば、変化を少しずつ実感できるということですね*。
- *2023年7月撮影
2020年4月からBRCA検査および、
予防的に乳房を切除するなどの
手技が保険適用*となった
- *遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)
大谷先生
そうですね。遺伝が原因で乳がんになった方々を早期に発見し、乳がんによる死亡を防ぐことを目指していました。そのために、この3年間の取り組みは有意義であったと思います。
名倉さん
そういう意味では、もう「乳がんは親から遺伝することがある」という認識は十分に広がっていると考えてもいいのでしょうか?
大谷先生
「乳がんは遺伝することがある」という認識は少しずつ広がってきています。
しかし「十分に広がった」とまでは言えないですね。
まずは、「乳がんは遺伝することがある」という認識をすべての乳がん患者さんにもってもらいたいです。
そして、「遺伝性乳がんとわかることが、どのように治療に影響するか」についても認識を広げていければと思います。
名倉さん
そうですよね、まだまだ発信を続けていく必要がありますね。
そういえば、先生、この動画が掲載されている「乳がん.jp」の「よくある質問」ページのご監修は大谷先生が携わっておられるのですね!先生のもとへ多く寄せられる質問はどのようなものが多いのでしょうか?
乳がん患者さんから多いのは
どのような質問?
大谷先生
それはやはり、「私のがんは、子どもに遺伝することがありますか?」といったお子さまのことを気にされる質問です。思えば、当然ですよね。お子さまのことは誰だって気になりますよね。
「私のがんは子どもに遺伝することが
ありますか?」といった
お子さまのことを
気にされた質問が多いです
名倉さん
そうですよね。患者さんはご自身の治療以外のことも、気にされているのですね。そのような患者さんに向けて、先生から一言いただけますか?
大谷先生
はい。私がいつも患者さんへお伝えしていることですが、あなたの乳がんが遺伝性だと早くわかることのポジティブ、明るい面を考えてほしいです。遺伝性乳がんであることが早くわかれば、乳がんで亡くなることを減らす方法があります。これはお子さまにも言えることですよ。
遺伝性乳がん*とわかることを
ポジティブにとらえていきましょう!
- *遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)
名倉さん
先生、ありがとうございます!
ところで、遺伝性乳がんであるかどうかは、どうすれば調べることができますか?
大谷先生
BRCA検査という血液検査で調べることができます。このBRCAという、なんだかアルファベットが並んでいる検査も、昔に比べればだいぶ認知が広まりましたよ。
遺伝性乳がん*かどうかは
BRCA検査で調べます
- *遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)
名倉さん
この検査は誰でも受けることができるのでしょうか?
大谷先生
そうですね。まず、乳がんを診てくれている主治医の先生に、保険で受けることができるか聞いてみるといいと思います。教えてくれますよ。
大谷先生
ここに示している項目に1つでも当てはまれば、保険で検査が受けられますよ。
名倉さん
たくさんあり、複雑ですね。
大谷先生
そうですね。だから、わからなければ先生に聞いてください。聞きにくいなら、メモをとって、あとからゆっくり確認してください。
名倉さん
❹「第3度近親者内に乳がん、卵巣がんまたは膵臓がん発症者がいる」とありますが、第3度近親者、とは初めて聞く言葉です。誰を指すのでしょうか?
大谷先生
なかなか馴染みのない言葉ですよね、この図を見てください。
この家系図の範囲のことを、第3度近親者という言い方をします。真ん中の「本人」と書いてあるところが、病院にいらしている乳がん患者さんとしますね。例えば、いとこは第3度近親者なんですよ。
名倉さん
第3度近親者まで、となると、いとこのほかにも、おじ、おば、おい、めい、祖父母、孫、曽祖父母、大おじ、大おば、などが当てはまりますね。私自身のことを振り返ると、私の親、きょうだいまでは分かりますけど、交流のない親戚たちも、第3度近親者にがんになったかどうかまでは知らないです。
大谷先生
そうですよね、そのようにおっしゃる患者さんが多いですよ。大切なことは、知っている範囲のことを、医師や看護師に伝えることです。
当院にいらした患者さんでは、患者さんと近しい人、たとえばお母さんに「親戚でがんになった人を知っている?」と聞いている方もいます。
私からは患者さんに、「あなたが知っている範囲で、乳がん、卵巣がん、膵臓がんなどの家族歴を教えて欲しい。また今後、あなたの親戚でがんにかかった人がいる、とわかったら教えて欲しい」と話をしています。
乳がん、卵巣がん、膵臓がんなど、
がんの家族歴を
積極的に
医師や看護師へ伝えることが重要
大谷先生
このコンテンツを見ている方で、乳がんと診断されたけれど、主治医や看護師から家族歴について聞かれた経験がない方は、積極的に先生へ伝えてください。
家族歴は患者さんから伝えない限り、医療者は知る方法がないんです。
名倉さん
わかる範囲で、乳がん、卵巣がん、膵臓がんなど、がんの家族歴に関する情報を入手して、医師や看護師へ伝えることが重要ということですね。
名倉さん
本日は、大谷彰一郎先生に、「乳がんは親から遺伝することがある」というテーマでお話しいただきました。
遺伝性乳がんかどうかを診断するためにはBRCA検査が必要であること。
全ての患者さんが保険診療でBRCA検査ができるわけではなく、いくつかの条件があること。
検査条件の1つである「がんの家族歴」は、患者さんから医療者へ伝えないと、医療者は知る方法がないことを教えてもらいました。