乳房温存手術 ※乳房温存手術のQ&A
Q01 乳房温存手術の適応は?
A01
どの手術法を行うかによって多少違いますが、通常、次の3つの条件を満たす人が対象となります。
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触れるしこりの大きさが3cm程度まで
(大きい乳房で、術後の変形が大きくないと判断されれば4cmくらいまでは可) - いろいろな検査で、がんが周囲に広く拡がっていないことが確認されている
- 周囲のリンパ節への転移がないか軽度にとどまる
ただし、しこりが小さくても、しこりの周りの乳管の中にがん細胞が広く拡がっていて、取り残してしまう可能性が高い場合には、温存した乳房に再発(
さらに、乳房温存手術の適応はがんの性格によっても大きく異なり、患者さんの個人差もあります。たとえば、3cmのがんであっても、取り残しを防ぐための安全域を考えて、しこりの周りに正常乳腺を1.5~ 2cm含めて切除しますと直径6~ 7cmになります。従って、変形を作らないで温存手術を行える限度は乳房の大きさによって異なり、乳房の小さい方では3cmのがんでも乳房が変形しやすくなります。乳房の大きい方なら、4cmくらいのしこりでも、変形を作らないで温存手術を行えることもあります。また、乳房温存手術は乳頭や乳輪を残すことを前提としていますから、しこりが乳頭のごく近くにある場合には乳房温存手術を行うのが難しいこともあります。このような方は、乳頭直下で乳腺を水平に切離して乳頭と乳輪を温存させるようにしますが、場合によっては、乳頭、乳輪をがんと一緒に切除して、乳房のふくらみだけを残す温存手術を行うこともあります。
上記の乳房温存手術の適応条件に少し合わない場合でも、手術前に化学療法やホルモン療法を行って、しこりを小さくしてから、乳房温存手術を行う方法もあります。しかし、乳房温存手術だけをむやみやたらに追求すると乳房内再発の危険性が高まりますから、慎重に判断すべきで、全ての人に適応できるわけではありません。
通常、腋窩リンパ節転移がある程度みられる場合は、手術野の広さから考えて、確実を期するのであれば、乳房切除が望ましいといえますが、これとは逆に、遠隔転移を起こしている場合には、全身的な治療が優先されますから、局所療法が行き過ぎないように乳房温存手術の方がむしろ望ましくなることもあります。
これらの医学的事実以外に、乳房切除術、乳房温存手術のどちらを行うかは、患者さんや家族の希望、価値観、人生観などに左右されます。最終的にはこの事項が一番決定権をもつことになりますので、乳房温存手術の適応条件に合わない方で乳房温存手術を希望される場合は、医師とよく話し合い、ご自分の病気の程度とその後に予測される事態を十分考えたうえで、手術法を決めるようにしてください。
Q02 乳房温存手術でがん細胞を取り残す危険性は?
A02
乳がんはしこりが小さくても、その周りに画像診断では予測できない微細ながん(多くは乳管内がん)が拡がっていることがあり、しこりと一緒に切除する範囲が小さいほど、がん細胞を取り残す可能性が高まります。
このため、乳房温存手術を行う場合は、手術中や手術後に切除した組織を調べ、がん細胞を取り残した可能性がないかどうかを検査します(病理検査)。手術中の病理検査(術中
Q03 乳房切除術と乳房温存手術の治療成績には本当に差がない?
A03
房温存手術と乳房切除術を行った患者さんの術後の治療成績については、欧米を中心に世界各国で比較検討されており、Q01で説明したような適応条件を満たす患者さんを対象とした場合、乳房温存療法(放射線照射を併用)で、乳房切除術と変わらない良好な治療成績(
ただし、ここで注意しなければならないことは、乳房温存手術では、たとえ放射線を照射しても、Q02で説明したように、温存した乳房内に再発する危険性が多少なりともあることです。乳房内再発のリスクは放射線照射することにより低下させることができますが、放射線照射をしても全ての患者さんに対してがん細胞を完全に根絶できるとは限りません。これまでの臨床報告では、確実に行ったとしても5年で3~7%程度の人が乳房内再発を起こすとされています。このため、万が一、再発した場合に備えて手術後の定期的な検査を必ず受け、再手術など早期に対処できるような心構えが必要です。局所再発が多くなれば長期成績は必然的に低下するようになります。
遠隔転移の確率は、手術時にすでにがん細胞が全身に拡がっているかどうかで決まりますので、乳房切除術を行っても、乳房温存手術を行ってもほとんど差がないという結果が得られています。
Q04 乳房温存手術後の放射線照射はどのように行う?
A04
右乳房温存手術後
放射線照射後
3ヵ月の皮膚の状態
左乳房円状部分切除術後
放射線照射5ヵ月後の状態
通常、手術後退院してから外来で、週5回、5週間(計25回)放射線照射を受けます。方法は、残った乳房全体に1回2グレイを、肺や心臓にかからないように左右2方向から胸壁に対して接線方向になるように照射し、週5回×5週間×2グレイ、総計50グレイを照射します。遠方の方や交通の便が悪い方、歩行が不自由な方に対しては1回の照射量を2.5~ 2.66グレイに増やして計16回(3~ 4週間)とし、短期間で照射する方法も試みられています。
がん細胞を取り残した可能性が高い場合には、しこりを取ったところに照射野を絞って正面より電子線の追加照射(ブースト照射)10~16グレイを加えます。このように何回にも分けて照射するのは、1回の放射線量を少なくして、正常組織への影響を減らすためです。どこで照射を受けるのか、どのような方法によるかは、病院によっても多少違いますので、あらかじめ確認しておくとよいでしょう。
放射線照射による合併症には、次のようなものがあります。
- 最も多い合併症は皮膚炎です。照射を受けた皮膚が赤くなり、次いで日焼けしたようになって、皮膚が赤褐色化して乾燥しますが、ほとんどの場合は治療後3~6ヵ月で軽快します。
- 放射線によって汗腺が障害を受けますので発汗が減少して、乳房皮膚が乾燥ぎみになります。乳房皮膚がカサカサし、乳房の皮膚の色素沈着や乳房の線維化(硬化)が多少なりとも残ることがあります。
- 胸部に照射するとき、接線方向に照射しても、放射線が乳房に近い外側の肺に一部か かってしまうため、照射終了1~3ヵ月後に肺炎様症状を起こす人がまれにあります が、ほとんどの場合は6ヵ月以内に消失します。
- 照射後長期を経過したあと、特にブースト照射を行った場合に、局所の皮膚の血管が 軽度に浮き立ってみえるようになることがあります(テレアンギエクターシス)。